新しいファッションビジネスの可能性を垣間見る、瀧定大阪による「THEATRE PRODUCTS(シアタープロダクツ)」の買収

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2013年8月21日、ウィメンズブランド「THEATRE PRODUCTS(シアタープロダクツ)」を展開する有限会社シアタープロダクツが、繊維専門商社の瀧定大阪に全株式を譲渡すると公表した。8月29日付で有限会社シアタープロダクツから株式会社シアタープロダクツに変更し、代表取締役社長には瀧直人氏が就任する。

東京デザイナーズブランドとしての在り方

「THEATRE PRODUCTS」は、プロデューサーの金森香が当時COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)のパタンナーを務めていた武内昭、サンエー・インターナショナルの企画を務めていた中西妙佳の作品を観て声を掛けたことがきっかけとなり、2001年にスタートした。
「洋服があれば世界は劇場になる」をコンセプトに掲げ、コレクションや展覧会、店頭やイベントなどを通じ、ファッションブランドにおきるすべての出来事にスポットライトを当て、今や東京コレクションを代表するブランドの一つである。型破りなプロジェクトを次々と企画し、ブランド5周年を迎えた際には”シアタープロダクツの現場”と題し、ブランドの仕事場をそのまま東京・渋谷のパルコミュージアムに移動させ、実際に全社員が働く様子の公開した。また、ショーの会場として船や劇場や表参道本店などを舞台としてきた。

また、ブランドデビュー時より継続している一般消費者を対象としたワークショップの開催や、最近では、アイウェアのZoffとのコラボレーション商品を販売するといった多様な取り組みも特徴である。コレクションでは、時代の要素を取り入れながらも、毎シーズン変わらない独自のエレガントさが支持され、東京や大阪に直営店を構える。2013-14AWコレクションから中西妙佳に代わり、それまでアクセサリーや小物の「ensemble THEATRE PRODUCTS(アンサンブル シアタープロダクツ)」を手掛けていた藤原美和がデザイナーを務めている。

そのような中でも、近年の日本のデザイナーズブランドにおいては資金繰り問題や不十分な販路といった現状が挙げられる。「スワッガー(SWAGGER)」と「フェノメノン(PHENOMENON)」を企画販売する有限会社スワッガーと株式会社アリソンが倒産、また、デザイナーのNIGOが手掛け裏原ストリート界のトップとして君臨していた「A BATHING APE(ア ベイシング エイプ)」を展開する株式会社ノーウェアが負債を抱え香港のIT企業に売却された事例がある。当ブランドにも同じような壁が立ちはだかっていたのではないだろうか。

瀧定大阪が仕掛けたブランドビジネス

瀧定大阪は、年商約700億円、従業員数約750人の服地卸の国内最大手である。過去30年以上、日本の服地卸のトップを走り、現在も推定2000~3000億円の日本の服地流通で2割弱のシェアを誇る。2008年、父である前社長に代わり瀧隆太社長が弱冠35歳にして就任した。社長は、大学院卒業後から2007年までソニーに勤務しており、繊維についても経営についても全くの素人だったという。しかし、就任の翌年より大規模な構造改革に着手し、グローバル戦略とアパレルOEM生産を徹底してきた。2011年当時のあるインタビューでは、「豊かな資本力を生かし、3~4年後には思い切ったM&Aを仕掛けていく。」と語り、2015年度に売上高2000億円を目標として、川上から川下において事業の多角化・海外進出により経営拡大を図っている。

そして今年1月、ガールズブランド「OLIVE des OLIVE(オリーブ・デ・オリーブ)」(以下オリーブ)を買収した。オリーブは、中国で150店舗を出店をしており、年商100億円のうち中国事業が推定3割を占めている。瀧定大阪は、オリーブの中国展開に魅力を感じ、いずれは店舗網を生かした他の日本ブランド展開も視野に入れているという。
8月にはリステアホールディングスの子会社スタニングルアーのアパレル小売事業を吸収分割する形で、瀧定大阪の子会社スタニングルアーが誕生した。また、東京コレクションブランドでは坂口英明がプロデュースする「The Dress & Co. HIDEAKI SAKAGUCHI(ザ ドレス アンド コー ヒデアキ サカグチ)」なども傘下に収め、ファッションブランドのM&Aに積極的な姿勢を見せている。今回の買収も、500億円超の自己資金を活用した“思い切ったM&A”構想の一つであったのだろう。

デザイナーズブランドの「買収」という新たな可能性

繊維専門商社としてテキスタイルの分野だけでなく、小売分野を含めたブランドビジネス事業により経営拡大という瀧定大阪の狙いと、中堅デザイナーズブランドとして、新たなビジネス展開が必要な時期にあった「THEATRE PRODUCTS」。お互いのニーズが合致し、今回の買収に至ったのだろう。

今回の瀧定大阪の買収によって、「THEATRE PRODUCTS」はクリエーション面で東京コレクションを牽引してきたブランドであるが、「ISSEY MIYAKE(イッセイ ミヤケ)」、「Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)」、「COMME des GARÇONS」のいわゆる”御三家”以来成功が見られない日本のデザイナーズブランドの先駆けとして、ビジネス面においても大いなるリーダーシップを発揮するブランドへと変様するのではないだろうか。瀧定大阪の海外進出戦略を受けて、オリーブが初めに出店した中国の一級都市での成功が期待される。

大商社がブランドを「買収」というスクープの裏側には、日本のデザイナーズブランドの新たなビジネスモデルの誕生という、ファッション業界にとって前向きな流れを垣間見ることができる。一代で消えてゆくデザイナーが多い中で独立した形は無くとも、強力な経営の下でのブランド展開は、クリエーション力が総合的に上がり、飽和した国内市場に対しても海外進出に対しても有効な方法であると5年後、10年後に結果として現れる日が来るだろう。

文:石川 千央