和田メリヤスのやわらかくて、つよい ものづくり

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「Tシャツを数回洗濯したら、首回りが伸びてしまった…」そのような経験をしている人は少なくないのではないだろうか。

和田メリヤスは、世界的にも希少な吊り編み機を用いて天竺や裏毛などの生地を生産している。決して効率的とは云えないこの機械を使い続け、そして改良を重ねることで、サイクルの早い時代の流れに引けを取らない独自のものづくりを行っている。国内トップクラスのブランドの生地を生産した経験があるという点も興味深い。

2013年からは自社ブランド「WORK-ER(ワーカー)」を立ち上げ、より広くその良質なものを届ける活動で更に注目を浴びている。決して綺麗事に止まらない、生産現場からの視点とその価値を伝えるということとは?

今回は2015年3月26日にIID世田谷ものづくり学校で開催された、和田メリヤス代表の和田安史氏(以下、和田)と「WORK-ER」デザイナーの奈良平華子氏(以下、奈良平)のトークショーで話を伺った。

呼吸をする吊り編み機

くるくると回りながら、1時間に約1mというゆっくりとしたペースで編んでいくこの機械はどこか不思議である。「バブル期から急速に広まった高速の編み機が新幹線だとしたら、吊り編み機は各駅停車のようなものです」と和田氏は語る。

吊り編み機は明治時代中期頃に輸入され、昭和30年代頃まで活躍していたが、その後高速の編み機が台頭し、現在では世界的に見ても和歌山県を中心に500台程しか稼動していないという。

高速の編み機と比較すると、糸に負荷をかけないで編むため、体に寄り添うにように縦横に伸び、まるで空気まで一緒に編んだかのようにふっくらと仕上がる。また糸の性質を選ばず弱い糸から相当強い糸まで、例えばリネンや和紙、切れやすいカシミアの細番手なども編めることが特徴となっている。

驚かされるのは質感だけではない。約5kg以上の圧力に耐えられる必要があるというスポーツ用の裏毛の生地を生産した際には、高速編み機と同じくらいの太さの針・糸・目の詰まりの生地で破裂強度のテストを行い、高速編み機の生地では3.5kg~4kgの圧力までしか耐えられなかったのに対し、和田氏が生産した吊り編み機の生地では約7.5kgまで耐えられたという。

余談になるが、日本にメリヤスが伝来したのは16世紀後半から17世紀後半と言われ、「メリヤス」は当て字で「莫大小」と表記するが、その伸縮性から「大きくもなく小さくもない」という意味があるという。

奈良平: 「吊り編み機って操作するのが難しいのですか?」

和田: 「吊り編み機を直せるようになるのに、20年掛かると言われました。18歳から始めてやっと親父さんを超えたと思ったのは38歳のときでした。超えたと思ったときは少し寂しかったですけどね。時代が高速の編み機に移行するときに吊り編み機を買い集めたのですが、ニッターさんによってそれぞれ違うので、全て自分のものに合うように全て直し、24,5歳の時には市販のマイクロコンピューターのソフトを改良してボーダー柄を編めるようにしました。」

和田: 「工場では1分間に25回転くらい、それでも高速編み機よりは遅いです。自動車でも何でもそうなんだけど、普通の速さで走るのなら普通のエンジンで良いんです。色んな生地が編めるように部品を鉄工所に特別に作って貰っているのです。」

奈良平: 「高速編み機は、大量に作るための機械なのでそもそも沢山の糸必要となりますが、吊り編み機は編む幅を変えたりなど、デザイナーの立場としてサンプルで少し作ってみたいという気持ちに対応できるのが良いですね。」

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吊り編み機から生まれる生地には、大量生産の生地にはない特性があるが、機械そのものに目を向けてみると、要の一つとなっているのが針である。吊り編み機用の針は日本では生産されておらず、和田メリヤスではドイツのメーカーのものを使用し、吊り編み機の針だけはドイツ本社の資格を持った一部の者でないと作ることができないという。もちろん和田メリヤスには沢山のストックはあるが、手に入れるのに一年掛かるそうだ。この針の稀少さからも吊り編み機が如何に繊細なのかを思い知る。

奈良平: 「修理しているところを横から見ていると、本当に微妙な角度の調整をしていますよね。こうじゃないけど、こう…のような感じで…」

和田: 「息子から『ちょっと機械が動かないから見てくれ』と言われたときに、鼻の脂をちょんとつけたら動いたりしましたね。」

トークは、奈良平氏が聴き手の目線に合わせながら進めていく形で、言葉のひとつひとつがまるで吊り編み機で編まれた生地のように、温かみがあり、好感を持つことができた。

ものの価値を伝えるということ

「WORK-ER」の始まりは、奈良平氏が和田メリヤスに掛けた一本の電話であったという。もともと自分で糸を編んで一点物の舞台衣装やショーピースを制作していた奈良平氏が「工場と何かやってみたい」と思い立ちインターネットで検索し、直接和田メリヤスを訪問。

和田: 「新しい工場を18年前に作って、景気の悪い時だったので周囲には反対されましたが、逆に”今だからこそ”と思ったんです。そしてそれから4,5年経った頃に製品をやりたいなと思ったんですが、デザイナーやパタンナーとの付き合いもなくて、訪ねてくるのは紡績か生地商の人ばかりだったんです。それでも頭のどこか片隅にあったんですよね。そして彼女(奈良平氏)が訪ねてくる2日前にパタンナーさんが見学に来て、2人とも拠点が東京だったので、立ち上げることができるなと思いました。」

奈良平: 「もともと和田さんは製品をやってみたかった理由って何ですか?」

和田: 「あるアパレルブランド向けに生地を作っている時に、間に何件もの業者が入り数倍の上代になっていることを知って、直売にすれば安く良いものができるなと思って。」

奈良平: 「『WORK-ER』も一切小売店を通さずに、展示会もバイヤーさん向けに受注を取るわけではなく、一般のお客様に即売するようにしています。お客様ひとりひとりに伝えていくという作業をゼロからするのは、大変だけど楽しいです。」

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和田: 「イタリアのニッターさんなんかは、よく路地裏の家族経営で、有名メゾンに卸していたりしますが、継続するためにファクトリーブランドを立ち上げたりする流れもあるようです。これを聞いて、”方向性は間違っていないな”と思ったんです。その一方で、「WORK-ER」で使用している生地を海外の有名メゾンの商品企画で使用したいという話がきたときには、断りました。息子には叱られましたけどね。(笑)」

和田氏の強い思いが感じられる。

「WORK-ER」は毎回一つの“仕事”をテーマにコレクションを展開し、安定感のある上質なプロダクトを提案する傍ら、そのヴィジュアルは何とも新鮮である。

奈良平: 「最初は和田さん自身が着れるものから始めようってなったんです。和田さんが着れるものであれば、工場で着てもらえるから。まずは和歌山の工場に、どういったものだったら着て貰えるのかな?とリサーチをしに行きました。」

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「WORK-ER」公式HPより

奈良平: 「良い生地・凝ったデザイン・工程にも手間がかかっているため、価格とコンセプトが合わないのかなと悩んだ時もあります。でも汚い仕事着ではなくて、着用するとピッと背筋が伸びるような、人に見せたくなるような仕事着であって欲しいです。」

最新コレクションでは、綿ウールで鹿の子生地を制作。ウールのみ縮絨をかけることで模様ができ、編んでいるとは思えないような不思議な質感に仕上がっている。

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奈良平: 「和田さんが手を加えられたことによって吊り編み機で色々なことができるようになりましたが、今後の構想は?」

和田: 「今は針だけで編めるような機械の開発をしています。吊り編み機も変わらなくてはいけないんです。また近年では小学校の見学も受け入れていて、今まではこちらから何か言うこともありませんでしたが、これからは周りに輪を広げていこうと思っています。」

微笑みながら語る和田氏の挑戦はまだまだ続きそうな予感である。

近年、改めてものづくりの重要性が様々な分野で語られているが、和田氏のような生産現場での長い経験と飽くなき追求心によって支えられてきた背景を踏まえた上で、オープンな姿勢を持ち、自ら一般に伝えていくその存在は大変貴重であると今回特に考えさせられた。是非「WORK-ER」のプロダクトを手に取り、本質的なものの良さ、ものを作ることに対する姿勢を感じていきたい。

「WORK-ER」公式HP http://work-er.jp
取材協力・IID 世田谷ものづくり学校
文・石川 千央