KIDILL 2015 autumn & winter collection

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服の”韻”を吹き込むものづくり

2015年3月17日「KIDILL(キディル)」による2015年秋冬コレクションが発表された。テーマは「inperfect Rhyme」50年代のテディーボーイファッションをコレクションに落とし込んだ。

デザイナー末安氏は2005年からブランド「HIRO」として2013年まで9年間活動。14年秋冬からKIDILLと名前を変え、「日々の生活や環境から着る人の本質を引き立たせる服作り」をコンセプトとしリアルクローズを意識したスタイルを提案している。HIROと服のテイストは異なるが、共通しているのは強い少年や不良の男性像だ。ブランド名はKID=少年、ILL=繊細、怒り、不純なという意味の造語であり、思春期の気持ちの有り様や反骨精神などが含まれている。

今期は哲学者・九鬼周造の押韻論をコレクションに反映。俳句や詩に使われる「韻」、限られた文字数の中で異なった2つの意味を持つ言葉を取り入れる事で価値を生み出す。この日本独自の”粋な韻”を、過去と現代のストリート文化をミックスにより表している。

詩の芸術をショーで詠う

ブランドでは珍しい礼装をモチーフにしたセットアップスタイルからショーが始まる。1950年代下町の集結した不良少年に流行したテディーボーイファッション。特徴的な丈の長いジャケットの袖や襟などにベルベット素材を施しクラシカルなデザインを継承している。
2ルック目からはボックス型のジャケットにデニムの股の深いパンツを合わせるなど、ブランドの色が少しずつ醸し出していく。またネルシャツはフロックコート仕様となっており正装をリアルクローズにうまく落とし込んでいる。

九鬼周造が述べている日本詩の押韻は、詩の形式にはリズムとしての「律」と音色としての「韻」があり、形式に従う律格詩と作者の感情・思想に従う自由詩と分かれている。これはショーの流れから感じ取ることができ、前半はクラシカルな”形”にこだわり、徐々に末安氏の得意とするストリート感漂うテイストへ。服の”形”から”デザイナーの”思想”が入ったアイテムに変化しており、まるで律格詩と自由詩を詠っているようだ。

中盤からはオーバーサイズのジャケットやベースボールシャツなど近年のストリートの象徴とも言えるアイテムが揃う。そこに50’sによく見られたモチーフのキャラクターが描かれたニット、チェリーの付いたキャップなど、POPなアイテムを取り入れたスタイリングが定番。原宿の様々なカルチャーをミックスさせ可愛く着こなす現代の若者を掴んでいる。

終盤のジャケットにニードルパンチを駆使したアイテムは一見模様のように見えるが、人間に関わるワードを壊している。これはテーマである「Inperfect Rhyme(不完全韻)」という言葉をテキスタイルで表現した逸品。これまで重要視してきた”韻”を壊すというパンクの美学が含まれている。

受け継がれるストリート

14年秋冬よりブランドを変えてから3シーズン目。末安氏は若者から発信する”ストリート”に重きを置いていることが分かる。それは「HIRO」時代からも同じことではあった。当時はスタッズやメッセージ性の強いグラフィックを多用し中毒性の高いアイテムが多く好む若者が集まりスタイルを確立していた。しかし「KIDILL」は服のディテールや文化に着目している。

今期のテディーボーイスタイルは、お洒落を好んだ英国王エドワード7世が愛用していた礼服が元となっており、階級社会に対して若者の反抗から広まった。エドワード7世の愛称テディーから名付けられストリートの発祥とも言われている。過去にどういう若者が何のためにどういった着こなしをしていたか、コンセプトである”着る人”に焦点を当て、服から語られる時代背景を読み取れるようになっている。

末安氏は「若い頃好きなファッションスタイルの知識が薄いと恥ずかしい時代だった」と語る。これがKIDILLとしての基盤であり、しっかりとしたバックグランドがあるからこそ他のブランドにはない懐かしさがある。またニット地にデニムの端切れが編み込まれたカーデガンや、ニードルパンチで文字を立体に表現するなど新しい技術を用いることで現代的なアイテムに進化させている。

また今回ショー演出で、天井の低いライトが会場を煌々と照らし、電子音がピコピコと聞こえた。そこは映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の世界のように、過去のストリートと現在の若者の着こなしと時空を超えて融合させたコレクションとも感じ取れる。つまり末安氏が定義した2つ意味を1つで表現する”粋な韻”ということではないだろうか。

存在する無数のカルチャーの中で、ストリートに特化し古さを感じさない。絶妙なミックスはKIDILLならではの世界を作り、着る人を文化とともに伝えてくれるブランドである。

文:徳永 啓太


KIDILL / キディル

KIDILL(造語) : 純粋性と気持ちのあり様。

designer

末安 弘明
Hiroyasu Sueyasu

collection

2015 a/w

2015 s/s

2014 a/w