designer
mari odaka
Photo
Eiki Mori

malamute 2016 spring & summer collection

updated   : 6   : 0   : 0

涼しげで繊細なガラス細工のように

ニットウェアブランド「malamute(マラミュート)」が2016年春夏コレクションを発表し、2015年10月18日~28日まで原宿にあるギャラリー「ROCKET」にて個展を開催した。今期は梶井基次郎の短編小説「檸檬」から着想した爽快感のあるニットを編み上げた。

淡々とした日常と空想

「檸檬」は1925年に発表され、京都を舞台に得体の知れない憂鬱さやいたずらな空想を詩的に描いた文学作品である。淡々とした文調の中に繊細さを匂わせる「檸檬」をどのように紐解き、今日へと編んでいったのだろうか。展示会場には、文中に登場するガラス細工の品々が飾られていた。その涼しく危うげな印象を捉えた詩的な描写は、デザイナーの小高氏が海岸で冷んやりとした貝の化石を拾った時の、どこか不思議な感覚と重なったという。

引き返し編みを用いたボーダー柄は「びいどろ」をモチーフにしたり、薄いニット地には、格子状のプリーツ加工を施した後、上からプリントをすることでプリーツ部分が白く残り、香水瓶の切り子の柄のように見える。肌が透け、広く開いた袖からは女性らしさが香る。自身の体験や文学作品が投影された服からは、一筋縄ではいかないどこか繊細な夏を感じる。

夏にこそニット!

毎シーズン情緒的なニットを生み出している「malamute」であるが、今回は「ニット」という絶対的なアイデンティティーに対してより踏み込んだ姿勢を見せた。「暖かい」「柔らかい」といったニットに固有のイメージを脱却し、サマーニットを強く打ち出している。

デビューシーズンよりブランドアイコンとも呼べるグラフィカルなジャガードニットを展開してきたが、厚みが出やすく秋冬の印象が否めない。そこで、爽やかな檸檬の花を柄として用い、セットアップで展開した。檸檬の花を上品なガラス細工に見立て、ジャガードで表現した真っ白なニット。これは透明糸を使用し、実際には透けていなくても視覚的に涼しく感じることができる。

更に大理石をイメージしたというニット地にはブランドとしては珍しく転写プリントを用い、軽やかな透け感を実現させた。また糸を樹脂でコーティング(=擬麻加工)し、独特なハリ感・弾力性を持った無縫製のスカートは麦藁帽子を想起させる。糸は速乾性や冷感のあるものを積極的に取り入れ、麻や綿がメインとなっている。遊び心もさることながら、ニットならではのプロダクトにはまだまだ驚きが多く隠されていることを教えられた。

前シーズンよりも2倍以上増えたルックの撮影場所には「水の宮殿」の愛称を持つ、とある浄水場が選ばれた。曲線が多様されたモダンな建築物とともに、夏日が差しながらも冷んやりとした情景が写る。特に服の透け感を意識(強調)していることが読み取れる。小高氏が描いたイメージを確かな技術でプロダクトへと紡いだ。

ニットブランドとしての新境地

ニットは布帛と比べてはるかに人の身体に寄り添い、着る人の個性を包むものである。特に女性の強さとやわらかさの二面性を表している「malamute」は、実際に女性が着用するシーンの意識を垣間見ることができる。

例えば、“ニット用ベルト”と称したバックルをなくしたベルトは、ニットに引っ掛かけることなく着用することができるという機知の効いたアイテム。またアクセサリーブランド「somnium」とのコラボレーションで、ニットに合わせたブローチを展開し、ケシ加工が施されたアクリル製のピアスは、檸檬の花を象っている。

アイテムの幅を拡張することで、全身をニットブランドで装うことへのハードルを下げ、エレガントながらも日常への導線を引いている。ニットが本来持合わせている美点はそのままに、新しい技術を加えることや、クオリティと両立した見せ方で「malamute」の世界を確立していくのではないだろうか。今期の発表を経て、“得意技を凝縮する秋冬コレクション”、“挑戦的な春夏コレクション”といった二面的な姿勢をも感じさせた。

第33回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞にノミネートされるなど、次シーズン以降も半歩先のニットの楽しみ・可能性をどのように見せてくれるのか、期待したいブランドである。

文:石川 千央