matohu 2015 autumn & winter collection

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闇夜に澄ます日本の美

2015年3月20日「matohu(まとふ)」による2015年秋冬コレクションが発表された。今期は「ほのか」をテーマに掲げ、現代の生活の中で忘れかけられているあかりに対する繊細な感覚を表現した。

美意識の共感

「日本の眼」シリーズ十二となった今回の「ほのか」は、谷崎潤一郎氏の著書『陰影礼賛』において、日本の人々が魅了されたのは「陰影」そのものというよりも、ほのかな明るさの方ではなかっただろうか、という問いかけである。無から有へと変わる咄嗟、そしてそれを捉える繊細な感覚…。特に身近に感じやすく、共感しやすい美意識であった。

毎シーズン、matohuの招待状には、デザイナーの二氏(以下、二氏)が自身の体験から見出された(気付かされた)日本の美意識=シーズンのテーマを丁寧に綴った文章が同封されている。今季は銀色の光沢紙を用い、銀屏風を感じさせる質感で蝋燭が同封されていた。私たちがあかりに満ちた世界で生活している中で、蝋燭を使う場面は確実に減ってきている。仏壇の蝋燭ですら電気に取って代ってきている程である。確かに、あかりに対する繊細な感覚を失うことへの危惧を感じずにはいられなかった。

会場は、メルセデスベンツコネクション。足を踏み入れると灯篭に見立てられた照明が暗闇の中に優しく灯る。モデルは暗い会場の影からぽっと現れ、またゆっくりと消えていく。ショーは、黒を基調とした影から、繊細な色彩感覚、終盤にはほのかな「光」を表現した構成となり、動きの中で移り変わる服を様々な角度から情緒的に魅せた。

糸一本から始まるmatohuの美学

今回のコレクションを製作するにあたり、二氏がひとつひとつ暗いところで蝋燭を灯しながら試したという。ラメ糸が混ぜて織られた張りのある黒い生地はほのかに輝き、それを服へ仕立てることで立体となり陰影ができる。シルクやレザーの光沢は、普段の明るい環境で見る時よりも更に際立つ。細かな製法においては、刺繍には西陣織に使用する漆の糸を用い、プリントの顔料の中には金粉を混ぜた。そしてその美学は色や形、素材に移ろいで行く。

手織りと同じ速度で丁寧に織られたスラブツイードのコートには、紡ぎの工程で意図的に太さの違うスラブ糸を使用し、スエード調の立体的なフォルムのスカートは、生地の裏面にスポンジを合わせ、ドット柄に見立てた熱パンチングを施した。重みのある素材やフォルムに光が当たった際にほのかな陰影ができる。

青や紫、黄色など鮮やかな色味が揃い、暗い空間の中でどのように映るか。ガス火が燃え立つ柄を大胆に「長着」やスカート、ワンピースへと投影し、暗闇で燃え立つ様子を描き出し、銀屏風が蝋燭の光を受けて燃え立つような輝きを表現したベージュシルバーの美しい色味が会場を灯した。古くから日本人が美しいとしてきた、華やかさと暗さが表裏一体となった耽美的な世界を創り上げた。

ひとつひとつの工程から服に「ほのか」の美意識が宿り、何とも丁寧な服作りを感じさせる。そしてその集大成がショーであると堀畑氏は語る。糸一本からmatohuの美学は始まっていた。

「現代に在る」意識

「ほのか」の美意識を優しく、丁寧に服に映し出したmatohuであるが、現代意識を随所で感じられた。今回の重くなりがちなテーマに対して、特にシルエット・丈感を考えながら作り込んだという。一方で、matohuの象徴であり定番である「長着」は、今季初めて素材の一つにダンボールニットを採用し、より日常生活で身に纏いやすく変遷を見せた。またショーの音楽はリズミカルにサンプリングされており、テーマ性との均斉が考慮されていることが伺える。

研ぎ澄ました感覚で観る僅かな世界

「ただ“薄暗い”とか“見えない”とかではなく、ほんの僅かに見えた明かりに託し、心を寄せてみることで、より豊かな世界が広がってくるのではないでしょうか。」と発表後のインタビューでデザイナーの堀畑氏が述べ、この言葉通り説得力の強いコレクションであった。

「ほのか」とは、心や感覚がものの気配を身近にひきよせて強く感じることだ。それは相対的に少ない(ネガティヴに)のではなく、かすかな存在をより集中して大きく(ポジティブに)捉えようとする態度のことである。「ほのか」の語源は「火の明か」というが、それはうす暗いことではなく、闇の中で心の頼りとなる明るさのことである。2015 autumn&winter collection プレスリリースより

日常生活において当然のように在る故に見落としがちな価値観に対し、深くじっくりと向き合うことで、共感し易い美学へと昇華する。日本人が大切にしてきた素材のひとつひとつから服へと繋がっていることを改めて考えさせられた。そしてこの美学を身に纏い、肌に触れる質感・視覚などあらゆる感覚を働かせることで、自身の中に在る「日本の眼」が覚まされていくように思う。

文:石川 千央

matohu / まとふ

日本の美意識が通低する、和服でも洋服でもない新しい服を追求している。2009年には「毎日ファッション大賞」で新人賞・資生堂奨励賞を受賞するなど、業界から高い評価を得ている。「matohu慶長の美」展をはじめ、積極的にブランドの展覧会を行なっているのも特徴。2012年8月には初の書籍『言葉の服』を出版するなど、年を重ねる毎に着実にブランドの成長を遂げている。

designer

堀畑 裕之 / 関口 真希子
Hiroyuki Horihata / Makiko Sekiguchi

collection

2016 a/w

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